朝起きてもスッキリしない。それ、ただの疲れじゃないかもしれません。
「寝てるはずなのに疲れが取れない」「家族に『いびきがうるさい』と指摘された」
そんな日常のサイン、実は放置すると糖尿病のリスクを高める可能性があるのをご存じですか?
これは「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」という、夜間に呼吸が何度も止まってしまう病気が原因である可能性があるのです。
睡眠中の呼吸トラブルが、血糖値に関係する?
米国で行われた大規模研究「ウィスコンシン睡眠コホート研究」では、一般住民約1,400人を対象に、睡眠中の無呼吸と糖尿病の関係が調べられました。
その結果・・・
睡眠中の無呼吸や低呼吸の回数が多い人(=重度のSAS)は、そうでない人に比べて糖尿病を発症するリスクが約1.62倍高かったのです。(Reichmuth KJ, et al: Am J Respir Crit Care Med 2005; 172(12): 1590-1595)
しかもこれは、年齢や性別、体格などを考慮してもなお、はっきりとした関係が認められました。
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なぜ、睡眠の質が血糖値に影響するのでしょうか?
実はここには、私たちの身体を守る「自律神経」の働きが深く関わっています。
SASになると、眠っている間にも何度も呼吸が止まり、身体が「危険だ!」と判断して交感神経を刺激します。これにより、アドレナリン(カテコラミン)が分泌されます。
このホルモンは、血糖値を上げる作用があります。さらに、脂肪を分解して血中の脂肪酸が増えることで、インスリン(血糖を下げるホルモン)の働きが鈍くなるのです。
結果として、血糖値が高くなり、糖尿病のリスクが上がるというわけです。
SASは糖尿病を悪化させ、糖尿病はSASを悪化させる
さらに注意したいのは、「糖尿病の人はSASになりやすい」ということ。
アメリカで行われた別の研究では、糖尿病患者の約77%がSASを合併しており、中等症以上のSASも38%にのぼるという結果が出ています。(Punjabi NM, et al: Am J Respir Crit Care Med 2009; 179(6): 535–540)
つまり、SASと糖尿病はお互いに悪影響を及ぼす関係。
どちらかを放置すると、もう一方も悪化するリスクが高くなるのです。
SASは、糖尿病だけではありません。他の病気にも深く関係しています。
睡眠時無呼吸症候群は、糖尿病だけでなく、さまざまな生活習慣病との関連が明らかになっています。
- 高血圧のリスク:約1.4〜2.9倍
- 脳卒中・心筋梗塞のリスク:約3.3倍(重症の場合)
- 不整脈のリスク:約4倍
睡眠中の「息が止まる」状態を放置しておくと、全身の健康に深刻な影響を及ぼすことがわかります。
「自分では気づけない」からこそ、大切なのは周囲の声
SASは、自分自身では気づきにくい病気です。いびきや日中の眠気を「疲れているだけ」と片付けがちですが、家族やパートナーに指摘されたら、ぜひ一度医師に相談してみてください。
簡単な検査で診断が可能ですし、早期発見すれば治療によって改善も期待できます。
質の高い睡眠は、生活習慣病予防の重要な柱です
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、糖尿病をはじめとする生活習慣病と密接に関係しています。
しかし、その兆候は見逃されやすく、気づいたときには症状が進行していることも少なくありません。
糖尿病の血糖コントロールが不安定な場合、SASの併発を念頭に置くことが、より適切な治療戦略につながります。
「眠っている時間」にも目を向けることで、患者さんのQOL向上と合併症の予防が可能です。
ご自身やご家族の睡眠に少しでも不安を感じたら、専門機関への相談をおすすめします。