睡眠時無呼吸症候群

睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは、睡眠中にのどの気道が塞がり呼吸が繰り返し停止してしまう病気です。呼吸が止まるたびに血中の酸素濃度が低下し、体は「息をしなければ」と反応して浅い覚醒(めざめ)を繰り返すため、深い睡眠が得られなくなります。その結果、夜間に十分な時間寝ても疲労が取れず、日中に強い眠気に襲われるようになります。また、低酸素状態を補おうと心臓に負担がかかり、血圧が上昇したり不整脈が起こることもあります。

SASは決して珍しい病気ではありません。実は成人男性の約5人に1人、閉経後の女性の10人に1人が治療が必要なSASを抱えているとの報告もあります。日本全体では数百万人規模の患者さんがいると推定され、その多くが未診断・未治療のまま放置されているのが現状です。いびきや無呼吸は自分では気づきにくいため、「自分は大丈夫」と見過ごされやすいのですが、中等症以上では放置すると命に関わる合併症リスクが高まるため注意が必要です。次章から、SASになりやすい原因や背景について見ていきましょう。

SASの直接の原因は、睡眠中に咽頭周辺の気道が狭くなるか塞がってしまうこと(閉塞)にあります。では、なぜそのようなことが起こるのでしょうか? 以下に、SASを発症しやすい主な要因を挙げます。

  • 肥満(太り過ぎ)
    • 最も代表的な原因は肥満です。肥満の人は喉や軟口蓋に脂肪がつきやすく、上気道(空気の通り道)が狭くなるため、SASになる可能性が高まります。実際、日本では30~60代男性の3割以上が肥満とされ、この20年で成人男性の肥満者数は約1.5倍に増加しました。それに伴いSAS患者も増加傾向にあります。最近急に太った方、若い頃と比べて大幅に体重が増加した方は要注意です。
  • 顎・喉の構造(解剖学的要因)
    • 肥満でなくても、骨格や顔・喉の構造によってSASを起こしやすい場合があります。たとえば下顎が小さい・後方に引っこんでいる、首が短い、扁桃腺が大きい、舌が大きいなどの特徴がある人は気道が狭まりやすく、睡眠中に喉が塞がりやすいのです。仰向けに寝たとき、舌や軟口蓋が喉の奥に落ち込み気道を塞ぐリスクが高くなります。また一般に日本人は欧米人に比べて顔の奥行きが短く喉が狭い傾向があり、SASを発症しやすい骨格と言われます。
  • 性別・年齢
    • SASは圧倒的に男性に多いことが知られています。男性の発症率は女性の2~3倍とも言われ、特に中年以降の男性で頻度が高い傾向があります。一方、女性は閉経前までは比較的少ないものの、閉経後には女性ホルモンの減少に伴いリスクが男性並みに上昇します。つまり高齢になるほど男女差は小さくなり、シニア世代では男女とも注意が必要です。
  • 生活習慣(飲酒・喫煙・睡眠薬 等)
    • 不適切な生活習慣もSAS発症の誘因となります。たとえば大量の飲酒や睡眠薬の常用、極度の過労は、咽頭の筋肉の緊張を低下させて気道を塞ぎやすくし、SASを引き起こす可能性があります。また喫煙習慣がある人は喉に慢性的な炎症が起きやすく、気道が狭まることで無呼吸を助長します。これらの習慣がある方は、肥満や骨格に問題がなくてもSASリスクが高くなるため注意が必要です。

以上のように、「太っている中年男性」だけがSASになるわけではなく、痩せていても顎の小さい女性やお酒を飲む習慣がある人など、幅広い方が睡眠時無呼吸症候群を発症し得ることが分かります。思い当たる要因がある方は、一度専門医療機関で検査を受けてみることをおすすめします。

SASを放置すると、睡眠中の低酸素状態や眠りの分断が長期間続くため、身体に様々な悪影響を及ぼします。その代表が生活習慣病との関連です。睡眠時無呼吸症候群の患者さんでは、高血圧や心疾患・脳卒中、糖尿病などを合併するケースが多く報告されています。主なリスクを以下にまとめます。

  • 高血圧
    • SASの患者さんの50~80%に高血圧がみられるとの報告があるほど、両者の関連は深いです。睡眠中に繰り返される低酸素状態は交感神経を刺激し、血管を収縮させるため慢性的な高血圧の原因になります。実際、何種類も降圧薬を使っても血圧コントロールが難しい方にSASが潜んでいたケースも多く報告されています。
  • 心筋梗塞・脳卒中など心血管疾患
    • SASによる低酸素状態は動脈硬化を進行させ、心筋梗塞や脳卒中のリスクを高めます。重症SASの場合、これら心血管イベントの発症リスクが健常者の約3.3倍に達するとのデータもあります。中等症・重症のSASを治療せず放置すると、将来的に心疾患や脳卒中による突然死の危険性が高くなるため注意が必要です。
  • 不整脈
    • 睡眠中の低酸素や頻繁な覚醒は心臓のリズムにも影響を与え、心房細動など不整脈のリスクが高まります。ある研究では、SAS患者は不整脈を発症する確率が約4倍に増加したとの報告があります。特に夜間に発作性心房細動が起こる人では、背景にSASが隠れていないか評価することが推奨されています。
  • 2型糖尿病
    • SASと糖尿病もお互いに悪影響を及ぼし合う関係です。睡眠中の無呼吸によるストレスで交感神経が活発になると血糖値を上昇させるホルモン(アドレナリン等)が分泌され、インスリンの効き目が悪くなります。その結果、血糖値が上がりやすくなり糖尿病の発症リスクが約1.6倍に高まることが報告されています。逆に糖尿病患者さんの約77%がSASを合併していたとの研究もあり、SASと糖尿病は密接に関連しているのです。
  • 交通事故などの危険
    • SAS最大の自覚症状である日中の強い眠気は、仕事や学業の能率を下げるだけでなく、居眠り運転など重大事故の原因にもなります。ある調査では、重症の睡眠時無呼吸症候群の人は健康な人に比べて交通事故を起こす確率が6~7倍高いというデータもあります。実際に、運転士が重症SASだったために新幹線の居眠り運転事故が起き社会問題になったケースもあるほどです。

このように、睡眠時無呼吸症候群を放置すると全身の健康に深刻な影響を及ぼすことが明らかになっています。特に中等症(1時間あたり無呼吸・低呼吸が15回以上)や重症(30回以上)の場合、適切な治療を行うことでこれら合併症のリスクを大幅に減らすことができます。裏を返せば、SASを治療することで高血圧や糖尿病のコントロールが改善したり、夜間の頻尿が減るなど健康状態が向上するケースも報告されています。心当たりのある方は早めに対策を講じ、将来的なリスクを減らすことが大切です。

睡眠時無呼吸症候群の症状は本人には自覚しにくいことが特徴です。いびきや無呼吸は寝ている間の出来事なので指摘されなければ気づけず、日中の眠気も「最近疲れているから」と見過ごされがちです。しかし周囲から見ると、SASの方には次のような共通したサインが現れます。

  • 睡眠中のいびき・無呼吸
    • 激しいいびきをかくのが典型的な症状です。「ぐうぐう」といういびきに続いてピタッと呼吸が止まる無呼吸発作が繰り返されます。無呼吸のあと苦しそうに「ガッ」と息をする様子が見られることもあります。これらはご本人よりも同室のご家族やパートナーが気付きやすい症状です。
  • 起床時の疲労感・頭痛
    • 睡眠中に何度も浅い覚醒が起こるため、朝起きたときに熟睡できていない感じがあります。十分寝たはずなのに疲れが残り、頭が重い・頭痛がすることもあります。また無呼吸中は口呼吸になるため、起床時に口や喉が渇いていることもあります。
  • 日中の強い眠気・倦怠感
    • 夜間に深く眠れない影響で、日中に耐え難いほどの強い眠気が現れます。仕事中や会議中でもウトウトしてしまう、酷い場合は運転中に居眠りをしてしまうこともあります。併せて集中力の低下や体のだるさ(倦怠感)、強い眠気によるイライラ感などが生じることも少なくありません。

以上のような症状に思い当たる場合、「ただのいびき」「歳のせいの疲れ」と軽視せず、一度専門医に相談することをおすすめします。SASは本人よりも周囲から指摘されて気づく病気でもあります。ご家族にいびきを指摘されたり、「日中いつも眠そうだよ」と言われた場合は、体からのサインと捉えて早めに検査を受けてみましょう。簡単な検査で原因かどうかは確認できますし、きちんと治療すれば症状は改善する可能性が高いのです。

初診・問診

睡眠中のいびき、日中の強い眠気、倦怠感などの症状について詳しくお伺いします。
また、生活習慣、既往歴、服用中の薬なども確認し、必要に応じて検査を提案します。

簡易検査(自宅での検査)(検査器具写真)

当院では、ご自宅で手軽に行える簡易検査をご案内しています。
指に装着する小型のセンサーを一晩つけて眠るだけで、睡眠中の呼吸状態や血中酸素飽和度(SpO₂)などを測定します。

検査日を決定

医師と相談の上、検査日を決定し、スタッフより使用方法の説明を行います。

検査キットをご自宅にお届け

専用機器は郵送でご自宅に届きます(もしくは来院時にお渡し)。

ご自宅で装着して一晩眠るだけ

指先にセンサーを装着し、普段どおり眠っていただくだけで検査が完了します。

翌朝、キットを返送

起床後に機器を外し、同封の封筒でご返送ください。

1週間後に結果説明

データを医師が解析し、1週間ほどでクリニックにて検査結果をご説明いたします。

検査をご希望の方はお気軽にご相談ください。

検査結果に基づき、必要に応じて適切な治療や専門施設での精密検査をご案内いたします。なお検査自体は痛みもなく安全ですので、「一晩入院はちょっと不安…」という方も、まずは簡易検査から気軽に受けてみることをおすすめします。

睡眠時無呼吸症候群と診断された場合でも、適切な治療によって症状の改善と合併症リスクの低減が期待できます。患者さんの状態(無呼吸の重症度や原因)に応じて、以下のような治療法が選択されます。

  • CPAP(シーパップ)療法(経鼻的持続陽圧呼吸療法)
    • 中等症~重症のSASに対する第一選択の治療法です。就寝時に鼻にマスクを装着し、専用の小型装置から空気を送り込みます。気道に空気圧をかけることで喉の閉塞を防ぎ、寝ている間ずっと気道を開通させる仕組みです。CPAP装置の使用中は無呼吸やいびきがほぼ完全に抑えられるため、夜間の酸素低下や睡眠分断が解消されます。その結果、翌日の眠気やだるさが大幅に改善し、生活の質が向上します。現在のCPAP装置は昔に比べて非常に静音・小型化しており、マスクの装着感も向上しています。データを医療機関に自動送信する機能や加湿機能付きのものもあり、自宅で安心して継続できる治療法です。日本では一定以上の重症度と診断されれば健康保険が適用され、装置はレンタルで提供されます。医師の指導のもと正しく使用することで、高い効果を発揮する標準的治療法です。
  • 生活習慣の改善
    • SASの治療において、薬に頼らず生活習慣を見直すことは非常に重要です。中でも減量(体重コントロール)は効果的で、肥満が原因の方は適正体重まで減量することで症状が大幅に改善し、SAS自体が治るケースもあります。また飲酒を控えることも不可欠です。アルコールは睡眠中に咽頭の筋肉を弛緩させ、無呼吸を悪化させるため、特に就寝前の飲酒は避けましょう。喫煙習慣も喉に炎症を起こし気道を狭めますので、この機会に禁煙できるとベストです。そのほか、睡眠薬の長期使用は避ける、十分な睡眠時間を確保して睡眠不足を解消する、枕や寝姿勢を工夫して仰向けより横向きで寝るようにする(軽症例では効果があります)といった対策も有用です。生活習慣の改善はSASの治療効果を高めるだけでなく、高血圧・糖尿病など併存する生活習慣病の予防にも繋がります。

以上のように、睡眠時無呼吸症候群にはさまざまな治療法が存在します。患者さん一人ひとりの病状に合わせて最適な方法を選択・組み合わせることで、質の高い睡眠を取り戻すことが可能です。適切な治療により「朝までぐっすり眠れるようになった」「日中眠くならなくなり仕事の効率が上がった」と実感する患者さんも多く、高血圧や糖尿病が改善するケースも報告されています。SASは治療で良くなる病気ですので、悲観しすぎず前向きに取り組みましょう。

新宿サザンクリニックでは睡眠時無呼吸症候群(SAS)の検査・治療に対応しています。簡易検査(アプノモニター)の貸出や結果の詳しい説明、CPAP療法の導入指導、生活習慣改善のアドバイスまで包括的にサポートいたします。

「もしかして自分もSASかも?」と不安に感じたら、どうぞお一人で悩まずにご相談ください。早期に対策を行うことで、いびきの改善や日中の眠気の解消はもちろん、高血圧や糖尿病など合併症の予防にもつながります。質の高い睡眠を取り戻すことは、毎日の生活をより健康で快適なものにしてくれます。いびきや睡眠中の無呼吸、慢性的な疲労感に心当たりがある方は、ぜひ一度新宿サザンクリニックにご相談ください。スタッフ一同、安心して治療を受けていただけるよう丁寧に対応いたします。気になることがあれば、無理せずご相談ください。私たちと一緒に、快眠と健康を取り戻しましょう。