
百日咳の症状・診断・治療について
百日咳とはどんな病気?
- 百日咳は「ボルデテラ・パータシス」という細菌によって引き起こされる呼吸器感染症
- 子どもだけでなく大人もかかる
- 初期は風邪と似た症状から始まり、激しい咳が数週間〜数か月続く
百日咳は、細菌性感染症の一つで、特に乳幼児では重症化しやすいことから注意が必要です。「百日」と名のつくとおり、長期間(平均6〜10週間)にわたり咳が続くことが特徴です。WHOのデータでは、世界で年間約2万4,000人が百日咳によって死亡しているとされ、日本でも毎年数千人の患者が報告されています。
百日咳の原因となる細菌と感染経路
- 原因は「ボルデテラ・パータシス」という細菌
- 感染経路は飛沫感染(くしゃみ、咳)
- 潜伏期間は7〜10日
百日咳の原因菌は「Bordetella pertussis(ボルデテラ・パータシス)」という細菌で、感染者の咳やくしゃみによる飛沫を吸い込むことで感染します。感染力は非常に高く、特にワクチン未接種の子どもでは接触者の9割が感染するとも言われています。
百日咳の主な症状と経過
- 初期(カタル期):風邪のような症状(鼻水、くしゃみ、微熱など)
- 痙咳期:激しい咳発作(咳込み、息が吸えず「ヒュー」という音)
- 回復期:咳は残るが、徐々に軽減する
百日咳の症状は3つの段階で経過します。
- カタル期(1〜2週間):この段階では風邪と見分けがつきにくく、軽い咳や鼻水が中心です。
- 痙咳期(2〜6週間):咳が徐々に激しくなり、1回の咳が連続して20回以上出ることもあります。息を吸うときの「ヒュー」という音(笛声)は百日咳の特徴的なサインです。
- 回復期(2〜4週間):咳が少しずつ軽くなりますが、完全に治るまでに1か月以上かかることも珍しくありません。
子どもと大人で異なる百日咳の症状
- 子ども:典型的な連続咳と「ヒュー」という笛声
- 大人:咳は長引くが、笛声などは出にくい
- 大人が子どもへうつすこともある
大人やワクチン接種歴のある子どもでは、典型的な「笛声」や発作的咳が現れない場合もあります。そのため、風邪と見過ごされることが多く、職場や家庭内で他人に感染させるリスクが高まります。特に生後6か月未満の乳児に感染させると重篤化の恐れがあるため、注意が必要です。
百日咳と風邪・他の咳との違い
- 風邪:咳は1週間程度で治まる
- 百日咳:咳が3週間以上続く
- 気管支炎や喘息などとの見分けが難しいことも
百日咳は風邪やアレルギー性咳嗽、気管支喘息と症状が似ています。しかし、咳が3週間以上続く場合は百日咳を疑う必要があります。特に「夜間に悪化する咳」「咳き込んで嘔吐する」「睡眠が妨げられる」などの症状がある場合は、医療機関の受診が勧められます。
百日咳の検査と診断方法
- 鼻咽頭ぬぐい液による細菌培養やPCR検査
- 抗体検査(血液)
- 症状からの臨床診断も行われる
診断には鼻の奥をぬぐって菌を検出する検査(培養・PCR)が一般的です。咳が出始めて1週間以内なら、PCR検査が有効です。一方で、発症後2週間を超えると抗体検査(血液検査)が用いられることがあります。医師は症状の経過も含めて総合的に診断を行います。
百日咳の治療法と使われる薬
- 抗菌薬(マクロライド系):クラリスロマイシン、エリスロマイシンなど
- 咳止めは基本的に使わない(かえって悪化することも)
- 安静と保湿が重要
百日咳に対しては、マクロライド系抗菌薬(例:クラリスロマイシン、エリスロマイシンなど)がよく用いられます。発症後早い段階での投与が効果的ですが、咳が激しい時期に入ってからでは細菌はすでに減っていることもあります。咳止め薬はかえって痰が排出できなくなり、悪化する可能性があるため、使用は慎重に行われます。
百日咳はうつる?感染予防のポイント
- 感染力が非常に高い(家庭内感染率90%以上)
- 飛沫感染を防ぐため、マスク・手洗いの徹底
- 発症後5日間は登校・出勤禁止(学校保健安全法)
百日咳は非常に感染力が高い疾患で、家庭内や学校・職場での集団感染を引き起こすこともあります。感染者は抗菌薬投与後5日間、もしくは自然治癒でも3週間程度は他人に感染させる可能性があるため、登校・出勤停止の対象になります。飛沫感染対策としてマスク、換気、手洗いが有効です。
百日咳の予防接種(ワクチン)について
- 定期予防接種:DPT(ジフテリア・百日咳・破傷風)ワクチン
- 生後3か月から4回接種が基本
- 成人の追加接種は任意だが推奨されている
百日咳はワクチンで予防可能な感染症です。日本では定期接種の「四種混合ワクチン(DPT-IPV)」として、生後3か月から合計4回接種するスケジュールになっています。ただし、大人になってから免疫が低下していることもあるため、周囲に乳児がいる場合は追加接種(任意)を検討することが推奨されています。
百日咳の後遺症や注意すべき合併症
- 肺炎、中耳炎、けいれんなどの合併症
- 特に乳児では無呼吸や脳症のリスクも
- 咳による肋骨骨折、尿失禁なども報告あり
百日咳は特に乳幼児にとって危険な感染症であり、肺炎や無呼吸、けいれん発作を引き起こすことがあります。大人でも、強い咳によって肋骨を骨折する、尿失禁を起こすといった後遺症に悩まされるケースもあります。長引く咳による体力低下にも注意が必要です。
百日咳が疑われるときの対処法
- 咳が2週間以上続く場合は受診を
- 家庭内感染を防ぐため、マスク着用と隔離を
- 早期受診と検査で拡大を防ぐ
咳が長引いていて、夜間に悪化する、咳込みで嘔吐する、息を吸うときに笛のような音が出るなどの症状がある場合、早めの受診が大切です。特に乳児や妊婦、高齢者と同居している場合は、感染拡大防止のためにも速やかに医療機関を受診しましょう。
咳が長引くときに受診する目安
- 咳が3週間以上続いている
- 咳とともに発熱、息苦しさがある
- 咳込みで吐く・眠れない・話せないなど
通常の風邪の咳は1〜2週間で軽快するのが一般的です。3週間以上咳が続く場合は、百日咳や喘息、肺炎など別の原因が考えられます。特に小児や高齢者、基礎疾患がある人は早めに受診することが勧められます。
まとめ
- 百日咳は細菌性の強い感染症で、特に乳幼児で重症化する
- 初期は風邪に似ていて見過ごされがち
- 咳が3週間以上続く場合は受診が必要
- 感染予防にはマスク、手洗い、ワクチンが有効
- 成人の無症候感染から乳児にうつるケースもあるため注意